トップ >> 警備に関わる法知識 >> 刑法
警備業務と犯罪
警備業務は依頼に応じて「盗難などの事故」「負傷などの事故」「人に対する危害の発生」を警戒し、未然に防ぐことを目的としています。
これらの業務を遂行するにあたっては「犯罪の発生」に遭遇したり、犯人と対峙したりする可能性がないとはいえません。
むしろ一般に生活する人々より機会は多いと考えられます。
犯罪行為が目の前で行われている場合、警備員は一般人と同様に正当防衛・緊急避難・現行犯逮捕などの措置を採ることができます。
そこで重要なのが「何が犯罪なのか?」を正しく認識できるかどうかです。
犯罪行為ではないのに、犯罪であると誤認して対応措置をとった場合、その警備員の行為自体が犯罪行為となってしまうことがあり得ます。
正しい対応措置を採るためには、「犯罪とは何か」という正しい知識が必要なのです。
そのために「刑法」に関する基本的な知識は、警備員にとって必須となります。
犯罪の種類
刑法上、犯罪は大きく4つに分類できます。「生命又は身体を害する罪」「自由、平穏又は秘密を害する罪」「名誉を害する罪」「財産を害する罪」の4つです。
ここではそれぞれを簡単に説明します。
生命又は身体を害する罪
- 殺人
- 殺人とは故意をもって人の生命を害する行為を指します。故意ではない場合は傷害致死、過失致死、遺棄致死になり、殺人ではありません。
- 暴行
- 暴行とは故意に他人に暴力を使用する行為を指します。衣服をつかんで引っ張る、殴打する、肩を押す、手をつかんで引っ張る、人に向けて唾を吐きかけるなどは、いずれも暴行にあたります。
なお、暴行によって人にケガを負わせた場合には暴行罪ではなく、傷害罪が適用されます。
- 傷害
- 傷害とは人の身体の完全性を害する、もしくは人の生活機能に障害を与えることを指します。具体的には切り傷を負わせる、睡眠薬を飲ませ昏倒させる、故意に性病を移す、精神的緊張を意識的に与えて、精神障害を負わせるといった行為がそれにあたります。
暴行によって、傷害にあたる被害を人に与えた場合は、暴行罪ではなく傷害罪が成立します。暴行の意思がなく人に傷害を負わせた場合は過失傷害罪となり、相手が死亡した場合には過失致死罪となります。
暴行、傷害の意思を持ち、結果的に相手が死亡した場合には、殺人罪ではなく傷害致死罪となります(いわゆる「殺すつもりはなかった」という事例です)。
- 凶器準備集合・凶器準備結集
- 暴力団などの抗争行為を早期に取り締まるために1958年に設けられた規定が凶器準備集合・凶器準備結集です。
2人以上の者が共同して他人の生命や身体、財産に害を加えるために集まった場合、「凶器準備集合」となります。
また「凶器準備結集」とは、凶器を自分で用意したり、他人が準備していたりすることを知りつつ人を集めた場合に該当します。
- 爆発物、銃砲などに関する罪
- 爆発物の使用は最高刑として死刑をもって処罰する規定であり、刑法上の殺人罪よりも重い罪とされています。爆発物使用未遂、製造、輸入、所持、注文、教唆も厳しく処罰されます。
また爆発物を発見したり、使用計画を知ったりした者は警察官などに告知しなければなりません。これに違反するとそれぞれ罰を受けます。
銃砲刀剣類所持等取締法によって許可を受けている者以外が、それら銃剣類を所持することは禁じられています。また身辺警護業務以外の警備に従事する警備員が、正当な理由なく警戒棒などを携帯していれば、この法に抵触します。
- 遺棄
- 乳幼児など日常生活を1人で送る能力がないと見なされた者を遺棄する行為は、「遺棄罪」に相当します。警備員が自分の担当区域内で扶助を必要とする者(泥酔などの状態)を発見した場合、不審者と見なして担当区域外へ連れ出して放置する行為は遺棄にあたります。
しかし扶助が必要な者をそのまま放置することは、軽犯罪法の第1条第18号「自己の占有する場所内に、老幼、不具若しくは傷病のため扶助を必要とする者又は人の死体若しくは死胎のあることを知りながら、速やかにこれを公務員に申し出なかつた者」に抵触してしまいます。
こうしたケースでは速やかに警察に連絡するのがベストな対応です。

自由、平穏または秘密を害する罪
- 逮捕・監禁
- 逮捕は人の身体の自由を直接に実力で拘束する行為を指します。監禁は、脱出が不可能な一定の場所に人の身体の自由を拘束し続ける行為を指します。
現行犯逮捕は法令で定められた一般人に与えられている権利ですが、犯罪行為を行っていない者を実力で拘束することは、逮捕罪にあたります。
また、一般私人(含む警備員)が現行犯逮捕の後、不必要に一定の場所に長時間犯人を閉じこめる行為は監禁罪にあたります。
- 脅迫
- 被害者またはその親族の生命、身体、自由、名誉、財産に対する害悪の告知によって、人を脅かす行為です。
- 強要
- 脅迫や暴行を用いて、人に義務のない行為をさせたり、逆に必要な行為を阻害したりする行為を指します。
- 威力業務妨害
- “威力”とは人の意思を制圧するのに足りる勢力を用いる行為を指します。暴行・脅迫は当然“威力”に当てはまります。実際に相手の意思が制圧されたどうかは関係ありません。
“業務”は企業の営業活動や労働組合の活動が含まれます。
- 住居侵入
- 正当な理由なしに人の日常に使われる家屋に侵入する行為を指します。この場合、独立した住居だけではなくアパートやマンションも含まれます。
- 信書開封
- 正当な理由なく、封をしてある他人宛の信書を開ける行為を指します。ハガキや無封信書などの封がないものの文面を見る行為は該当しません。
- 信書隠匿
- 他人宛の信書を見られない状態にしてしまう行為を指します。隠す、破壊する、捨てる、見つかりにくい場所に置く行為がそれです。また信書開封とは異なり、ハガキや無封信書の隠匿も該当します。
名誉を害する罪
- 名誉毀損
- 事実、風聞、批評もしくは虚偽の情報を公然と摘示することで、人の名誉や体面を損なう行為を指します。
- 侮辱
- 公然と人を侮辱する行為です。侮辱によって実際に被害を受けたかどうかは問われません。
財産を害する罪
- 窃盗
- 空き巣、スリ、居空き、置き引き、かっぱらい、万引き、枕探しなど、他人の財物を窃取する行為を指します。ただし直系血族、配偶者、同居の親族間で窃盗行為があった場合、刑は免除されます。
- 強盗
- 暴行または脅迫を用いて他人の財産を不当に奪う行為を指します。暴行、脅迫の度合いは、畏怖程度ではなく被害者が抵抗できないほどに強いものが該当します。それ以外の度合いであれば恐喝罪に該当します。
- 詐欺
- 人をあざむき、不法の利益を得る行為を指します。「食い逃げ」も詐欺罪の1つです。
- 恐喝
- 人に畏怖を与えるような行為を用いて、不法の利益を得る行為を指します。「畏怖を与える」とは暴行や脅迫、威力を示す、立場状不利となることを示唆するといった行為が該当します。
- 横領
- 自分の手元または操作が可能な範囲にある他人の財産を、勝手に着服・処分する行為を指します。具体的には、借りた物品を売り払うといった行為です。業務上横領と区別するため、単純横領とも呼ばれます。
- 業務上横領
- 業務上で、自分の手元または操作が可能な範囲にある他人の財産を、勝手に着服・処分する行為を指します。横領との違いは、“反復継続する意思のもとに行った行為”であるかどうかです。単純横領よりも背信的性格が強いと見なされ、刑は重くなります。
- 遺失物横領
- 遺失物や漂流物、その他占有を離れた他人の財産を、勝手に着服・処分する行為を指します。具体的には落とし物や忘れ物のように、持ち主の意に反して占有を離れたものを不法に自分の所有物としてしまう行為です。
- 器物損壊
- 所有が他人にある“器物”を損壊する行為です。この器物にはコンピューター上で取り扱うデータやペットも含まれます。ペットの場合、逃がしてしまう行為も該当します。

犯罪の成立
違法性の認識
何らかの行為が犯罪として成立するには、まず「構成要件に該当」することが必要です。
この構成要件とは刑法やその他の刑罰法令にて規定される犯罪の定型を指し、実質は「違法行為の類型」といえます。
行為が構成要件に当てはまる場合、さらに行為が「違法」であれば犯罪であるということができます。
構成要件が犯罪の定型である以上、それに当てはまれば違法であると断じることもできますが、例外も存在します。
簡単な例を挙げます。“医師が手術の際に、患者の身体にメスなどで傷をつける”という行為は構成要件に該当し、かつ傷害罪に相当します。
しかしこれは犯罪ではありません。このように刑法のみに照らし合わせれば違法となりつつも、他の特別な理由で合法となる事情のことを「違法性阻却事由」といいます。
警備員が遭遇した事態に対し、犯罪が成立しているかどうかを判断する基準の1つが、この「違法性阻却事由」の有無の確認であるといえます。
しかし、これらの条件を満たしていたとしても、それが必ず犯罪であると断言することはできないのです。「有責性」が関係してくるからです。
有責性とは
前述の犯罪の構成要件に該当し、かつ違法性が確認された行為がすべて犯罪となるわけではありません。その行為が犯罪となるには、その行為が「有責」の上で行われたことでなければなりません。
有責性があると見なされるには以下の条件を満たす必要があります。
- 自己の行為が犯罪であることを知っていた(故意)、または注意義務を尽くしていたら犯罪であることを認識できた(過失)であろうこと(非難可能性)
- 自己の行為の是非・善悪を弁別し、その弁別に従って行動する能力がある(責任能力)
簡単な例を挙げます。“小学生が友人と遊んでいて、誤って友人にケガをさせ、死に至らしめてしまった”。
この場合の小学生の行為が故意であると判断できる理由がなく、かつその年齢では行為が死に至るものであると理解できない場合、非難可能性はなくなります。自己の行為の是非・善悪の判断を小学生に求めるのは難しいでしょう。
責任能力もないと考えられます。こうした事例では、小学生を犯罪人として処罰することは適当ではありません。
このように非難可能性や責任能力を要求することができない特別な事情を「有責性阻却事由」といいます。
「違法性阻却事由」とともにこの「有責性阻却事由」の有無を確認することが、犯罪が成立するかどうかに大きく関わってきます。
先に挙げた小学生の行為などに立ち会った場合、1人の人間としてそれを止めるのは当たり前の行為です。
しかし小学生の行為が犯罪として成立しないのであれば、過剰な対応を行ってしまえば警備員の対応自体が犯罪となってしまうこともあり得ます。
警備業務のプロフェッショナルである以上、刑法に関する正確な知識を持ち、「違法性阻却事由」「有責性阻却事由」の正確な判断が行えることは必須事項といえるでしょう。

警備員の民事責任
警備員が業務に従事しているという状態においては、「警備員」「警備業者」「契約先(依頼者)」の3つの立場が存在します。警備員の民事責任を考える場合には、この3者の立場を明確にした上で考える必要があります。
警備員と警備業者
警備員と警備業者との関係は契約上、債権者と債務者という区分になります。契約などによって一定の行為を請求する権利を債権と呼び、債権を持つ者は債権者です。
つまりこの場合、「警備業務に従事することを請求する」警備業者は債権者となります。
債権の行使を受ける者は債務者となります。この場合は、警備業者より「警備業務に従事することを請求される」警備員が債務者となるのです。
警備業者と契約先(依頼者)
警備業者と契約先との間には契約が締結されています。この契約により契約先は警備業者に対して「警備業務の実行を請求」します。つまり契約先は債権者であり、警備業者は債務者ということになります。
過失による損害賠償
警備業務に従事している最中に、警備員の過失により契約先に何らかの損害を負わせてしまったとします。
警備業者は、契約先に対し債務を履行していないことになるため、契約先は警備業者に対して賠償責任を請求することができます。
警備員の過失行為は警備業者にとっては雇用契約に背いた不法行為にあたります。
一般的に些細な過失による損害は警備業者が全額負担すべきとされていますが、その過失があまりに重大なものであったり故意による損害であったりする場合には、警備員自身が損害賠償を負うこともあり得ます。
