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犯罪行為を行った犯罪人に対して処罰が下されるのは、法治国家の当然の仕組みです。しかし、犯罪があったことが事実なのかを判断し、その犯罪に対してどう処罰を下すのかは、公平な立場である裁判所の判決によるものです。
この刑事裁判の一連の手続を刑事訴訟と呼びます。刑事訴訟をどのように定めるべきかは、刑事訴訟法および最高裁判所の刑事訴訟規則が規定しています。
刑事裁判においては、犯罪が行われた場合には必ず犯人を発見しなければならないという要求と、被告人であっても人権を充分に保障しなければならないという要求とがあります。 これは被疑者の段階でも同様であり、警備員は犯罪の現場に遭遇した際に、犯罪人の人権を阻害することなく対処することが求められているのです。
刑事訴訟法の第199条「逮捕の手続」によれば、逮捕とは実力をもって犯罪人の身体を拘束する行為のことを指します。
“実力”とは、押さえつけるなどの物理的な行為のみではなく、いつでも犯罪人の身体を補足できる態勢で逃走を防止する行為も含まれます。
基本的に日本では犯人逮捕について「令状主義」が採られています。裁判官の発する逮捕状により、逮捕権を有する警察官などが逮捕することを原則としているのです。 これを「逮捕状による逮捕」と呼びます。そして急速な逮捕を要し、裁判官の逮捕状を求めることが間に合わない場合に検察官や検察事務官、司法警察職員によって行われる逮捕が「緊急逮捕」です。 警備員は一般私人と同等の権利を持っているに過ぎず、警察官のような権利を持ちませんので、警備員がそれを行うことは違法です。 しかし、場合によっては一般私人であっても逮捕を行うことが可能となります。それが「現行犯逮捕」です。
(刑事訴訟法 参照条文)
「現行犯逮捕」
第213条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
現行犯人についてのみ、前述のような逮捕権を有しない一般私人であっても逮捕を行うことができると憲法第33条に規定されています。それを受けて規定されたのが刑事訴訟法213条です。 現行犯逮捕が合法行為となるために必要な条件としては、以下のものがあります。
1の犯罪が成立しているかどうかには、高度な知識と判断力が求められます。2、3に関しては、周囲の状況などに左右されるでしょう。 そして4の条件は、刑法に関する豊富な知識がなくては判断することは難しいといえます。4は軽微な犯罪の犯人の人権を擁護するために設けられた規定です。 5は4を補足するための条件となります。なお罰金30万円以下の軽微な犯罪には以下のようなものが含まれます。
現行犯人とは、刑事訴訟法第212条によれば「現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者」のことを指します。 正確な法知識を持つ者であれば、現行犯と目される者の行為が犯罪として成立しているかどうかの判断はできるでしょう。 しかし、誤って犯人ではない者を逮捕してしまえば、それは相手の人権を侵害することにほかなりません。 刑事上の逮捕監禁罪や名誉毀損などに問われ、民事上では損害賠償の責任を負うことになります。
「現に罪を行い」とは犯罪をまさに現在実行しているという意味です。そして「現に罪を行い終つた」とは言葉通り、犯罪を終えたことを今まさに確認できたという意味です。 犯罪を終えてから現行犯逮捕に至るまでの時間は犯罪の状況によりさまざまですが、犯行後30~40分経過した者を「現に罪を行い終つた」とした判例もあります。
現行犯人と「見なせる」者のことを、準現行犯人といいます。犯行の現場を確認していなくても、犯人であることが明確であるという場合、準現行犯人となります。 これは刑事訴訟法第212条第2項に規定されています。犯行後間もないと明らかに認められるような状態が必要ですが、一般的には1時間を超えない場合と考えるのが妥当でしょう。 そうした状況下で、以下のいずれかに該当する場合は、準現行犯人として現行犯逮捕することができます。
犯人として周囲から叫ばれている、凶器を持ったままであるといった状況下にあれば準現行犯人としての現行犯逮捕は可能です。 また、生々しい血痕が付着しているといった場合には、目撃者の証言があったり、犯行現場の状況から明らかであったりすれば、現行犯逮捕は可能です。 そして「誰何されて逃げ出す」とは「誰ですか」「どこへ行くのですか」といった質問を受けて逃走する状況を指します。 警備員の姿を見ただけで逃走するという場合も準現行犯人に該当します。
現行犯人を逮捕するためには、ある程度の実力行使が伴います。しかし、それはどのレベルまでであれば合法的な範囲なのでしょうか?
現行犯逮捕に限らず、犯人逮捕に関しては犯人の人権を侵害しないことが求められます。
その上で確実に犯人逮捕を行うには、非常に高度な技術が求められます。
ある程度の実力行使を越えた場合には、逮捕者が暴行罪や傷害罪に問われることになります。具体的に実力行使の度合いを示すことは困難ですが、無抵抗の犯人に対して暴力を加えるような逮捕はそれにあたるでしょう。 しかし、刃物を振り回す犯人に対して、警戒棒を使用するという判断は妥当ではないでしょうか。つまり社会通念と照らし合わせた上で、正当防衛や緊急避難の範囲内であれば、合法的な実力行使であると見なされるでしょう。
また護身具の使用に関しては、細心の注意を払う必要があります。彼我の勢力差を冷静に判断して、護身具の使用が合理的に必要であると考えられる場合に留めるべきです。 当然のことながら警備員は護身具の扱いに習熟している必要があります。不慣れな護身具の使用は、過剰な効果を犯人に与えてしまいます。
現行犯逮捕の場合であっても、警備員を含む一般私人による逮捕現場の捜索や差し押さえはできません。
これらは原則として裁判官の令状が必要となる行為です。警察官などの捜査機関が被疑者を逮捕する際には例外的に令状なしの捜索や差し押さえが可能ですが、その権利は一般私人にはありません。
ただし現行犯逮捕において、犯人が所持していた凶器を一時的に預かる行為は、自己や第三者の安全を確保する行為として認められます。 同時に逮捕後に盗品を犯人から一時的に預かることも、社会通念上合理的と判断される場合に限り許されるでしょう。
現行犯逮捕の際に、警備員を含む一般私人に付与される権利は、あくまで逮捕のみです。
警備員が現行犯逮捕のため、犯人を追って他人の住居へ立ち入り、逮捕を行うことは許されません。
この場合でも、警備員に対し住居侵入罪が成立してしまいます。警察官などの捜査機関であれば、逮捕に際して、他人の住居などへ立ち入ることも許されていますが、一般私人である警備員にはこのような権利はありません。
唯一、その住居の住居権者に承諾を得たときのみ、その住居内に立ち入って現行犯逮捕を行うことができます。
警備員を含む一般私人が現行犯逮捕において付与されている権利は、逮捕のみです。刑事訴訟法第214条では「直ちに」検察官または司法警察職員に犯人の身柄を引き渡さなければならないと規定されています。
取り調べなどの行為は一切行うことができません。正当な理由なしに司法への引き渡しを遅延させた場合には、監禁罪が成立してしまいます。
また、逆に犯人を放免した場合には逮捕罪が適用される場合もあります。
また、現行犯人に対して逮捕を行わず、「同意」を得て任意の同行を行う場合には司法への引き渡し義務は生じません。
現行犯逮捕を行った者は、司法に犯人を引き渡した後に、自分の氏名、住所、年齢、職業、逮捕年月日、逮捕理由、逮捕時の状況などについて報告し、必要な限り司法への協力を行う義務があります。